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ダビングステージで活かされる、FORS CINEMA
~東宝スタジオ訪問インタビュー~

青天の霹靂

青天の霹靂
2014年5月8日公開 配給:東宝
©2014「青天の霹靂」製作委員会

Q. では郡様にお伺いします。FORSを聞いた最初の感想、「青天の霹靂」に採用していただいた経緯をお聞かせください。

郡様(以下、郡):たしか、3〜4年くらい前に多良さんに初めてFORSを聞かせてもらいました。私たち映画のミキサーは、セリフを一番重要な仕事として考えて音を作って行く中で、聞こえ方の問題やその人(ミキサー)の好みの出来上がりと言うのを各自が持っていて、当時興味深くテストを拝見した中で、FORSのありなしを聞かせてもらった際、特にわかりやすいテストがありました。 音楽の余韻の消え入るところのシーン(大きいピークから音楽が最後にスーッと消え入る、お尻の印象)がとても印象的で、FORSっておもしろいなと感じました。
FORSがかかっているものだと、きれいにあたかも自然に消え入る感じで、大きいところから小さいところまできちんと表現できていると感じました。逆にFORSなしの音は最後がカク・カクと段がついたように聞こえたんです。FORSの第一印象は、「面白い、なんだか良さそう」だなと感じました。
その後、あんまり皆さん使っている雰囲気ではなかった様でしたが、それぞれの好みもあり難しいのかなと思いつつも、私は一回使ってみようかなと思ったのが、ひとつ前の作品「終の信託」の時でした。 タイミングもよく、多良さんにご相談したところ、キューテックさんの了解が取れて実現しました。
実際に「終の信託」で使ってみた時、音楽屋さんは問題なかったのですが、効果さんは少し難色を示していました。ちなみにFORSを入れる話はしていたのですが、内緒で、ダビングステージでFORSを入れた音を流したら、効果さんは即座に違いに気づいていました。これは黙って使えないと(笑)。

多:効果さんは自分のところで仕込んでいる際に、ダビングルームではこういう風に音が出る、と想定して仕込んできているので、「あれ?」とすぐに分かっちゃったんですね。

郡:作品「青天の霹靂」の時も、音楽屋さんは問題なかったが、効果さんは少し考えさせて、といった感じでした。

多:音楽プロデューサーが言うには、TD(TrackDown)の時に入れたコンプレッサーがまるわかりになってしまったとの事で、コンプがきつめにかかっているところはFORSを切ってもらっていたそうです。それ以外は問題なく使用したと聞いています。もしFORSを使うのならTDの仕方も考えないといけないかなとは言っていましたね。

郡:あと、効果の中でありものでSE音をつけるシーンや足音とか衣ずれとか、生アフレコ(フォーリー)のシーンも外させてもらいました。基本ワイヤレスとガンマイク(場合によってはそれ以上)の要素でセリフが成立しているのが常なのですが、そのセリフもピッタリ位相をあわせて使うかと言えば、部屋の大きさの大小だったりで、わざとずらして使う時があります。
前回の「終の信託」で一時間ぐらいある検事室のシーンで怒鳴りあったり小声だったりした時には、画角にあわせてアンビエンスをセリフの中でつけようとした部分があって、仕込み部屋で音を決めたのだけど、ダビングステージで聞いた時に同じ音の出方をしてくれなかったことがありました。その音はグッグッっと位相がずれた様な音になって出てくるはずだったのですが、出てこなかったんです。
FORSを入れる事は決めていたので、一から手で合わせてダビングステージで音を決める様にしました。
効果さんの生アフレコの音でも位相がずれた感じが出てたので、FORSを外して対応をしました。
ところで、FORSをいれることで位相の出方が違って聞こえるのはなぜなんでしょうか?

多:私は位相がすごくよくなるので、ずれがハッキリとわかるんではないかと思っているのですが。位相がよくなるとデジタルの傾向としては解像度がすごくあがるじゃないですか。ちょっとでも位相感が悪いとデジタルはものすごく音の違いがよくわかるので、まさにFORSで波形整形ができると同時に位相のところがすごくよくなる様な気がしています。とても不思議です。
逆にインタビューしたいのですが、キュー・テックさんは、位相の変化についてはどうお考えですか(笑)。

Q-TECマイスター(以下、M):基本的にアイパターンが濁ってきたり、レベルが変わってきたりすると影響が出てきます。海外の音が良いと言われる機材は、以外とノイズだらけの信号が多いんで、それを正規な信号に戻すと位相がハッキリと出て効果が明確です。逆に日本の機材は非常に波形がきれいで、そういうものにはFORSはあまり効かない印象です。
汚れた信号に対してはかなり補正する力を持っていて、正規なデジタル信号にするというFORSの特徴が表れています。結果として海外のものは設計がおおらかで、デジタル信号の設計がシビアでないし、特にアナログオーディオの場合は設計者が自分で聞いてオールオーバーで音を出している可能性があります。
デジタルとは言え、パッチとか色々なものを通すと、信号はどんどん劣化していきます。
デジタル信号の汚れをきれいに補正しオリジナル信号に近づけるのが元々のFORSの発想です。

Q. 今回初めて全トラックでトータルにご利用していただいて、気が付いた事はありますか?

郡:最終的にFORSを全部に入れてみないと効果がわからないじゃないかという思いが強かったです。効果さんにも相談して、入れてみようよ!と提案しました。ただ、実際に生アフレコの部分は外したのですが、それはあくまでも環境の違いであり、時間をかけて修正すれば、狙った音にならなくはないと思います。ただ、残念だったのが、そのシーンで時間をかけてやるような段階ではすでになかったという状況がありました。残念と言えば残念でしたし、何らかの手段でそういう会話ができた上で作業を進められていたら、違ったかもしれなかったです。


FORS CINEMAプロセス例

Q. 今回の「青天の霹靂」では作風に非常にマッチした仕上がりとしてFORS CINEMA をお使い頂けたという事でしょうか。

郡:私がFORSを入れようと思っている作品というのは、最初のテストで聞いた余韻にまつわる部分が大きくて、作風的にシャープな音が入っていないソフトな作品が多いです。なにかにつつんでもらいたいなという時に、FORSを使うと効果的だという感じがあります。
「終の信託」も「青天の霹靂」もそうですが、拳銃で撃ち合う様な激しい描写もなく心情的な作品で、そういう作品にFORSの利点が良い方向として表現しやすい気がしています。
ただ、もっとシャープでギスギスしたギャング映画みたいなものにもだめではないし、あわないという訳ではないと思います。FORSの原理からすれば、どのジャンルの映画でも効果が出るとは思っています。そんな中で、ソフトな作品に対してFORSは「間」の表現が得意な気がしたので、より優位になるし、そういう作品にあうのかなと感じました。

終の信託

終の信託
©フジテレビジョン 東宝 アルタミラピクチャーズ