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ダビングステージで活かされる、FORS CINEMA
~東宝スタジオ訪問インタビュー~

Q. Q:今のFORS CINEMA に対して、なにかご意見・ご要望があればお聞かせください。

多:先ほども言いましたが、作品によってテイストを変えて、画面上のメリハリをつけたりすることときれいになっていくことが必ずしも映画屋さんの好むところではない現状があるなかで、これからどのようにFORSのよさを理解してもらうのかが一つの課題だと思います。郡さんは音の余韻を聞いて評価したとおっしゃっていましたが、ほかのミキサーさん達はそれぞれに別のポイントを聞いて評価しているのだと思います。自分で録音した音が一番わかるし、人が録音した音は正直わからないという気持ちが強いんです。 自分で録音した音をAB比較の上、FORSありなしで本格的に比較された作品は、郡さんだけですから、すごく貴重な意見を貰ってます。

郡:私が伺いたい事として、本当のFORS CINEMA PROCESSORの映画での理想的な使い方って、何が完全なのでしょうか?

M:ダビング後に弊社によるDCPパッケージングでFORS CINEMAをご採用頂ければ、DCPに変換する時の欠落も補えますし、ダビングステージ時の情報が結果忠実に伝送されますので、お薦めです。

郡:波形がきれいになるままで最終まで持って行けるのですね。

M:はい、最終段のところまでも面倒を見る事が出来ます。しかし郡さんがいっていたミックス時のリバーブの抜けとかは、やはりダビング時にFORSをご利用頂き調整をしてもらわないと、改善出来ないんです。

Q. 各作業工程のI/OにFORSが入っていれば理想だと思いますが、いかがでしょうか。

多:郡さんの言った通りですが、素材段階でもON/OFFが出来ればサウンドエディットでは理想ですね。 前回までのテスト評価後、ダイアログ・音楽・効果の、それぞれのステム素材(※)に対して個別にFORSを入れるかを選べる形にしていただきました。それは郡さんからダイアログにつけているアンビエンスの感じが変わってしまったということもあったそうなので、自分たちがイメージしている(作り込んでいる)音と変わってしまうということが、もし起こってしまうと、ミキサーさん達からは、その時点でFORSを使いたくないという判断がされてしまうからです。

    ※ステム素材…膨大なチャンネル数で収録した音声を、ダイアログ・音楽・効果など各パートや音色ごとにあらかじめまとめる事をステムミックスと言い、各パート単位をステム素材と呼びます。

最近は時間的な問題などでアウトボードを避けてプラグインでエフェクト処理するケースが多いんです。お気に入りのアウトボードエフェクターがある人は、常にそれを使って作業をしているのであまり抵抗がないんですが、プラグインで音処理する人はアウトボードと聞くとセッティングに時間がかかると思っていたり、作業時間のタイトな中では若干抵抗感があるのかも知れません。
それとスタジオで作業している人間としては、ダビングルームなんかもそうですけど、スタジオ毎の音の違いを経験則に沿って感覚的に補正していることも多く、新しい機器を使用することで経験則から外れるので仕上がりの音が変わってしまう要因になる不安感もあると思います。
ミキサーの方々は仕上がった音の最終判断をする環境をどこにしているかはともかくとして、サウンドリファレンスは決めなくてはならないと思います。その場合、台詞の仕込みは自分の聞きなれたモニターで行い、スタジオに入ればスタジオのモニターで最終仕上がりの補正をします。その時はスタジオのエンジニアにも判断を求められるので、最終仕上がりの音があきらかに変化するような新しいツールをダビング時に導入するとか、仕上げ段階でリファレンスに迷うような新しい試みには勇気がいるのも事実ですね。
これまでの体験で、音が変わってしまうのは、デジタルはアナログより顕著であり、その原因は検証のしようもないということを感じています。FORSが音を良くすると言うか、イメージされた音の再現につながるツールの一つであれば、皆に使って欲しいし、良い状態をデジタルシネマにパッケージするところまでキープできる事、フィルム録音の段階でもサウンドクォリティーが向上している事が分かりましたので、これからはまずFORSというものがあるという事を知ってもらい聞いてもらう段階だと考えてます。
現在は弊社スタジオに常時設置させていただいており、すぐにON/OFFを確認出来る様になっていますが、仕上げスケジュールがタイトな状況や音が変化するということでエフェクターと混同される事がないように、ミキサーの方々の疑問や不安を払しょくできるほどゆっくりテストする時間がなかなか取れないのが残念です。

Q. DCPがキーワードとなっておりますが、デジタルシネマが主流となる今、映画の音についても、フィルムからデジタルへ上映する映画の方式が変わった事による影響がありますか? もし、FORSで取り組める事があれば教えて下さい。

多:今年に入ってきてから、オプチカルでフィルムまであげる作品は、ほんの一部になっておりデジタルシネマ上映が大前提です。ですからコストの関係などでフィルムを作らない作品が結構増えてきたと思います。
FORSのテストを始めた頃は、まだデジタルシネマの館数が少なくてフィルムの方が多い時期でした。 今はフィルムを作ったとしても劇場にかけるのではなく、デジタルシネマ環境がないホールなどで試写会をやるときや長期保存のアーカイビングなどの用途です。
デジタルシネマプロジェクターの普及は恐らく全国約3000スクリーンのうち2700〜2900くらいにはなっていると思います。大手シネコン系劇場は、ほぼ100%デジタルシネマ化されていると思います。
そんな中、最近感じるのがDCPの音響問題です。劇場用の音作りは画面から来る情報量の大きさを配慮して様々な工夫をしているんですが、我々が意図して作りこんだその音をお客様が劇場でそのまま同じように楽しんでいただけているか?という不安です。急速なDCPへの移行に対し、検定試写などで音質劣化が確認出来た際には、我々の経験不足やノウハウの蓄積不足もありその原因の追及や解決に苦慮しています。ハードウエアだけでなくソフトウエアも絡んでくるので、トラブルがあった場合にはその素材を機器メーカーやソフトウエア開発会社にも提供しで同じ劣化の再現性が認められた時には、ハードウエアの変更やソフトウエアではファームウエアのアップデートなどしていただいています。現場サイドでは多岐にわたるDCP音響問題の原因究明や改善を地道にやっているのが正直なところです。
DCPの段階で音質改善や、音が変わらない要素をFORSが担ってくれるのであれば、私としては、FORS「あり」は、とても有効だと思います。

Q. ありがとうございます。FORS DCPについては、是非ご提案させて頂きます。 さて、DCPから離れますが、FILMにおいてもFORSは効果があるのでしょうか?

多:今回、郡さんの横でフルに立会っていないのでダビングの状況は全部分からないんですけど、フィルムのオプチカル作業は私が担当しました。FORSを入れたマスターから作ったドルビーデジタルとアナログSRでは、どちらも音の歪が少なくてきれいな音だなといういつもとは少し違う印象でした。
特に位相差に敏感なマトリクスエンコードのアナログオプチカル録音では、音の良し悪しがシビアに分かるんです。デジタルほど周波数レンジは広くないのですが、今回は入れた通りの音がアナログでも歪感少なく聞こえたと言う印象です。
光学録音は音を写真に撮っているようなものなんで、そこの画がボケずにカチッとしてクリアに写っているとデジタルではジッターが軽減されますし、アナログでは位相が改善され音がきれいに露光されている事が聴感でより分かるんです。
残念ながらFILMは減って来てしまっているのですが、デジタルだけでなくアナログにもFORSは効果がある事が今回は実感できました。