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ダビングステージで活かされる、FORS CINEMA
~東宝スタジオ訪問インタビュー~

Q. ハイレゾと映画音声の関係についてはどうですか?

多:DCPは96Kまで行けるのでそこまでは将来的にはありかなと思います。 最近の没入型サラウンドは、画の3Dに対しての音も立体にしたいとの要望からでてきたものだと思うんです。やっと劇場には2K画質のプロジェクターがほぼいきわたったところで、次は4Kなんですとは簡単に進まないんです。民生TVは4K化が進んでいる途中でもありますし、お客さんの要望が多くなって映画コンテンツが増えればメイン館など一部劇場では入れ替えるところがあるかもしれません。映画作品の制作や興行が共に4Kに切り替わる頃には、音響の方は没入型サラウンドが加速する可能性はあると思っています。 現在でも撮影は4K、6K、8Kなどのクォリティーで撮っているので、制作側は4Kにはあまり影響ないのです。 高解像度の4Kでは3Dがいらないと言う人もいますし、映画館は広い空間ですからスイートスポットに座れる人が少ない事もありますから、その時にDolby AtmosとかAuro-3Dだとか没入型はどのようになっているか、クォリティーとして96Kのニーズになるかは、もう少し先にならないと分からないですね。 今はハイフレームレートや高解像度といった映像の事が協議されていて、音はまだまだ先というところでしょうか。

多:音質の変化で私が個人的に思っている事があります。フィルムではオプチカルになる時に欠落する事を想定した逆算によるEQポイントが明瞭度を上げるものだったのですが、デジタルではそのポイントが変換や再生状況によっては悪い結果を生む事もあって、そこを理解してやらないと、耳にうるさく、やかましい音が出てくる事があると思います。
私や現役ミキサーの方々は、FILMベースの音で育ってきました。EQ(イコライザー)処理など、それぞれが個々に持っているこれまでの経験則に加えて、上映方式が過渡期の今は、デジタルサウンドに効果的なEQポイントがきっとあるはずですから、それを習得する必要もあると思っています。
人間の耳は20KHzまで聞こえると一般的に言われますけど、実際には20KHzまでは聞こえない人が多い事を考えると、映画の音は周波数レンジをあまり広げすぎず耳に優しい音にして欲しいなと思う作品もあります。

Q. 郡さんから見たデジタルでの仕上げについては、いかがでしょうか?

郡:デジタルだからと言って手法は変わらないと思うんですが、今EQの話を聞いていたらなるほどと(笑)。
実際には聞いた音の通り作業しているだけなので、今までの経験に基づいた作業しかやっていなかったので、次回変えてみようかなと思いました。

多:問題がないのなら、変えなくてもいいんじゃないですか(笑)。
良い結果であれば当然変える必要もないんですけど、結果が悪く変わった時には次の音作りで新たな工夫をすればよいんだと思います。自分が聞いて満足できる良い上がりで、それが自分の意図した音であったとすれば、それはデジタルもFILMも変わりはないです。
とはいえ、良い音って表現はとても抽象的だし、個人差もあるし口では説明しづらいが故に、万人が良いと思うような結果を出すのは難しくとてもシビアな世界です。無責任には言えないんだけど、FORSにチャレンジして実際に使って、聞いてみて良ければいい事が起こっているんだ、理屈は兎も角も聞いて良けりゃいいんじゃない、っていう大胆さが映画の音にも必要だと思います。
先日、伊福部昭先生の生誕100周年記念音楽祭があって、久しぶりに生でオーケストラを聞く機会がありました。オーケストラの生の迫力と伊福部先生の曲の素晴らしさ、映像との相乗効果を久々に肌で感じることができました。映画の音って本当はそういうものだと思うんです。

多:とはいえ、音って、良い音を聞くとさらに欲が出てくるから、きりがないですね(笑)

今日はお忙しい所お話を伺う機会を頂き、誠にありがとうございました!